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生きる意味

またも本の紹介                           
           上田紀行著『生きる意味』(岩波新書)


 「上田紀行さんと言えば、十数年前に確か『スリランカの悪魔祓い』という本を読んだような…。あれは面白かったなあ。」
 と思いつつ、月一回、神戸大学の学生さんたちなどとやっている「どんぐり大学」のテキストに選ばれたこの本を手に取ってみた。題名は「生きる意味」。ちなみに上田さんは文化人類学者。

 「私たちがいま直面しているのは『生きる意味の不況』である。」…最初からすごいことがさらりと書いてある。「経済的不況が危機の原因だと言う人は多い。しかし…問題の本質はもっと深いところにあるのではないか。私たちを支えてきた確かなものがいまや崩壊しつつあるのではないか。」「私たちの『生きる意味』の豊かさを取り戻すこと。そのためにこの本は書かれている。」

 おーっ、と思って読み進めた。どんぐり大学でも参加者の一人が、この本のすごいところは、現代の危機を格差社会だとか環境問題だとかから言う人は多いが、一人ひとりの生のあり方の角度から言っているところだ、と言っていたが、本当にそうだと思う。それは、僕もぼんやり感じていながらなかなか言葉にできなかったことだ。
 
上田さんによれば、現代を生きる日本人が抱える最大の苦悩とは「かけがえのなさ」の喪失だという。たとえば過去の子どもの犯罪の時に出てきた象徴的なことば…「透明な存在」。自分の色やにおい、つまり自分の自然なありようを押し殺し、誰からも受け入れられる存在とならなければ生きにくくなってしまった学校や社会。そして、自分が自分でなくてもいい、「交換可能な自分」。今の子どもたちや若い人たちに話を聞くと、こういう思いを持っている場合が本当に多い。学校では本音を言い合える友達がなく、親には「いい子」を演じてきた自分…。そして多くの日本の子どもたちが自己肯定感を持てずに苦しんでいる現実…。

 経済発展の末にたどりついた地域社会の今の姿もまた、同じようにどこに行ってもマクドナルドやユニクロがある、「交換可能」な風景になってしまった。そこには、その地域の人たちの生きる姿が息づくオリジナルなもの、「かけがえのなさ」はみじんもない。

 もともと日本社会の特質として、他人の目を気にし、「他者の欲求を生きる」傾向が強くあった。それでも戦後しばらく続いた「右肩上がり」の経済の時代には、会社に入って一生懸命働けば少なくとも安定した老後の生活が保障された。今やその老後の安定が失われただけではない。グローバリズムや「構造改革」によって、アルバイト・パートのような「交換可能」な労働力として不安定な生活を強いられるだけでなく、やりがいのない仕事やコミュニケーションの喪失の中で「生きる意味」を見失っている。政治のレベルでも、「構造改革」というのは「グローバルスタンダード」という「世間の眼」を気にして始められたようなものだ。

 では、こういう今の世の流れを転換させていくキーワードはどこにあるのか?上田さんは「数字信仰から『人生の質』(クオリティ・オブ・ライフ)へ」だと言う。末期癌患者をやみくもに延命治療するのではなく、本人が納得して残りの人生を有意義に過ごすことを最優先に考えて取り組まれている終末期医療を例に挙げて、今の学校教育や労働のあり方を論じている。テストという一つのモノサシの数字のみで子どもを見ることで、一人ひとりの子どもの「かけがえのなさ」を見失ってはいないか。高収入を得るために、家族と過ごす時間を奪われ、人間として豊かな時間を過ごす為の長期間の休みを取ることもできずに仕事に追われてはいないか。

 そしてそして、これまでの価値観である「経済成長」など、外から見た成長観に代わるものとして、「内的成長」という言葉を提示している。年収や成績ではなく、生まれてから死ぬまでの間に私たちの中で「生きる意味」が成長していくことを大切に見ていこうというのだ。その「内的成長」のきっかけは「ワクワクすること」。そしてワクワクすることは、「内的成長」のふたつめのきっかけである「苦悩」につながる。苦悩は確かにネガティブなものだが、自分に何かを気付かせてくれるメッセンジャーでもあるのだ。

 そしてそしてそして、一人ひとりが内的成長を遂げるような社会になるためには、失われた中間社会…かつての地域社会や学校に代わる新たなコミュニティーを創造していくことが大事だという。「昔はよかった」とばかり、ともすれば個の多様性を抑圧する側面を持っていた古い共同体を「回復」するのではなく、「苦悩を支え合うコミュニティー」を「再創造」すること。その先達として多くのNGOやNPOがすでに国際協力や福祉などの分野で様々に活動している…。


 とにかく面白い本だった。著者の気迫が感じられた。そして、「『場』を作ることの意味」をあらためて自分の中で確認できた。「見てくれじゃない、その人の魂こそ大事なんだ!」と、僕が折りに触れて心の中で叫んできたことも、それで良かったんだと思わせてくれた。


※次回の「どんぐり大学」は、12月5日(水)夜7時から。六甲学童保育所どんぐりクラブにて。(078-207-8574)中村隆市・辻新一『スロービジネス』という本を読んで集まります。(ゆっくり堂より出版)中村さんはフェアトレードの先駆け的存在。このお二人はナマケモノ倶楽部、スローカフェなどにも関わっています。                                  
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